地下鉄で向かいに座った二十代半ば過ぎの女性。


千鳥格子柄のＰコートと茶のロングブーツがお似合い。
艶やかな黒髪に緩いパーマをかけた日本美人だ。


会社の上司にいつもの嫌味でも言われたのだろうか。
最愛の恋人についには別れを告げられたのだろうか。


涙をこらえていた。ぐっとこらえていた。
焦点が定まらない視線の先に、何を見ていたのだろう。


テレビは、この経営危機に直面した日本を乗り切る若い力の特集。


NPO法人を設立した自分と同年代の若者は言っていた。
「日本を変えれるのは今や官僚や政治家じゃない。僕らのこの一歩が変えられる。誰でも今すぐ変えていける。そんな考え方が当たり前に出来る国にしたい。」と。


社長じゃなくたって良い。
アルバイターだって良い。
芸人だって良い。
生活が苦しい？目標がある？
現実主義者や空想家でも何だって良い。


今、目の前にある生活する為だけの労働やお金にならない夢や理想が環境を変える。変えていける。


私利私欲にまみれ、生きるのに精一杯の自分はなんてみっともない。
いい加減、視野を広げたらどうだ。


日本なんて大それた事は少し置いておいて。


でもいつか、廻りに廻って彼女の涙は変えれるかもしれない。


使命を探す旅は続く。今日も地下鉄に乗って、暗いトンネルを抜けて。


定期が切れている。無機質なバーが僕の行く手を阻む。
人の生きる道にパスモなし。